| 新説・はるかぜとともに |
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宇宙の隅っこ、それはもう隅の隅に、ポップスターという惑星はありました。 このポップスター、田舎くさいという点を除けば平和だし食べ物はいっぱいだし空気はきれいだしでいいこと尽くめな惑星です。 さて、そんなポップスターが今日は少し騒がしいようですが……。 ポップスターの平野部、ベジタブルバレー。 農耕が盛んで畑からはにんじん大根引っこ抜き放題、そんな緑に溢れた平和な場所。 そこを大慌てで駆け抜けていく一つの影。 「たっ、たたた大変ッスよーっ!」 赤い髪の少年、ワドルディです。 赤い髪なんて実際見たら目立ちまくりですが、ポップスターの住民の髪はこれでもかというぐらいカラフルなので決してここでは目立つことはありません。 加えて顔も服装もこれといった特徴が無く、特徴がないことが特徴と言えるぐらいです。 さてそのワドルディの大声によって、何人かの住人がぞろぞろとやってきました。 「なによ、朝っぱらからどうしたの?」 そう言ったのは住民Aことワドルドゥ。 赤い髪と、アンテナのような2本の毛がチャームポイントの女の子です。 赤い髪しか共通点がありませんが、実はワドルディとは双子の関係。 「た、大変なんスよ。朝ごはんを作ろうと思って食料庫に行ったんスよ」 あ、ちなみにこの辺はでっかい食料庫に皆で食料を持ち寄って食べたい奴が食べたいだけ持ってくってスタンスです。今考えました。 料理無精な人は材料さえ持っていけばカワサキって料理人に作ってもらえるので安心です。 「で、食料庫がどうしたの?」 「えっと、た、た……」 じらしますね。 「食べ物がぜぶっ」 肝心な台詞を噛みやがりました。その辺がとってもワドルディ。 はい、テイク2。 「食べ物が全部盗まれたッス!」 ざわっ。 ワドルディの言葉に辺りがにわかにざわつきます。 そりゃ食べ物があらかた盗まれたらざわつきますわな。 「は、犯人は?」 住人B。めんどいのでキャラは設定しません。 「えっと、実はこんなメモが……」 ワドルディはポケットから1枚のメモを取り出し、皆に見せてあげました。 そこにはこう書いてありました―― 『親愛なる我が領民達よ。 この辺りの食料はわしが頂いた。 返して欲しければわしの城までやってくることだ。 ただし、道中に待ち受けるわしの手下を倒すことが出来れば、の話だが……。 偉大なる王デデデより』 「…………」 メモを読み終わった後には、なんともいえない微妙な空気が流れました。 「デデデって誰だ?」 「ほら、最近あの山の向こうに城を立てた奴だよ」 「ああ、あいつか。日払いのバイトで城作り手伝ったよ」 「お前も? あいつ、気前がいいよな」 こんな会話もされる始末。デデデの知名度と扱いがよく分かりますね。 「……で、どうする?」 「どうする、って……」 ワドルドゥに聞かれ、ワドルディはものすごく嫌そうに顔をしかめます。 「行くしかないッスよ」 そして山の向こう側に小さく見える城を睨みました。 城に行くためには森を通り海岸を通り山を登り雲の上を歩き、と長い距離を歩かなければなりません。 加えて手下があちこちにいるとなると、思うことはただ一つ。 ――めんどくさい。 これに尽きます。 双子2人は揃ってため息を吐きました。 と、その時です。 「おやおや、お困りのようだね?」 空からリズミカルなBGMが聞こえてきました。 皆が不思議に思って空を見上げると、そこには―― 淡く光る星型の板に乗った少年がいました。 桃色の無造作へアーに青い大きな瞳。 少年のわりにかわいらしい顔をしています。 「あんた、誰ッスか?」 ワドルディが訊ねると、少年は軽やかな動きで星の板から降りてきました。 BGMを流しているラジカセも持ってます。 「僕はカービィ。お礼次第で悩みを解決してあげるよ」 少年、カービィは爽やかな微笑を浮かべました。営業スマイルです。 リズミカルなBGMは相変わらず流れています。少し鬱陶しい。 「お礼次第、ッスか。……あの、とりあえず話だけでも聞いて下さいッス」 「ん、分かった。じゃあとりあえずお菓子でも出してもらおうかな」 「いや、えっと……それはできないッス」 「え? どゆこと?」 カービィの顔が急に怒りを含みます。 ワドルディは慌てて事情をかいつまんで説明しました。 「……ふうん、なるほどね」 事情を知ったカービィはにやりと笑いました。暗黒スマイルです。 「分かった! 僕がデデデのバカタレから食べ物を取り返してあげよう!」 会ったことない人をバカタレ呼ばわりです。 けれどもワドルディはそこはノータッチで、カービィの返事にただ驚くばかりでした。 「えっ、でもまだお礼の話が……」 「いいのいいの。お礼はバカタレからたっぷり搾り取るから」 カービィはにっこり笑って、 「……というわけで、君。案内役として僕の奴隷になりなさい」 ワドルディをびしっと指差します。 ワドルディ、フリーズ。 「……はい?」 「だからぁ、今日1日だけ僕の奴隷になってバカタレのとこまで道案内をしてくれっていうの」 「なんで奴隷なんスか……?」 ワドルディがささやかに抵抗の意思を示しますが、 「いいじゃん、奴隷で。それに、君には拒否権なんて無いんだよ」 カービィお構いなし。 ワドルディの髪を1本引っこ抜き、それをぱくりと食べました。 食べただけならただの変態で終わるのですが、そこはカービィ。一味違います。 なんとカービィの服装がワドルディの服装と全く同じになったのです。 そう、ファンなら皆知っているコピー能力。 住民はそのイリュージョンにただただ感嘆の声をあげるばかり。 ワドルディも髪の毛を引っこ抜かれたにも拘らず、カービィの変身に感心しています。 「ほーら、僕に従いなされ」 そんな隙だらけのワドルディの頭をカービィわしづかみ。 何のためらいも無くワドルディを地面に叩きつけます。あ、手加減はしてますよ。 「ちょ、な、何するんスか……!」 すぐさま起き上がろうとしましたが、どういうわけか体が動きません。 カービィの手から何か熱いエネルギーがワドルディに流れ込みます。 それが収まると、カービィは手をワドルディから離しました。おっと服も何故か元通り。 「はい、これで君は僕のヘルパー。おめでとー」 「いや、今の何なんスか? ものすごく不愉快だったんスけど」 「何、って言われてもなあ。はい、お手」 カービィは手を差し伸べ、ワドルディはそこに手を乗せます。 正真正銘のお手ですね。 「……え? 体が勝手に……」 「お座り」 ぺたり、その場に三角座り。 「な、なな、なんで勝手に動くんスかっ!」 「3回回ってワンと言え」 くるくるくる、3回回って、 「ワン!」 パーフェクト。 「こういうこと。君は今日1日僕の命令に逆らえない」 「そ……そんな……」 がっくりとうなだれるワドルディ。 カービィはそんな彼には構わず例の星型の板を呼び寄せます。 「じゃ、行くよ」 カービィは星型の板にひょいと飛び乗り、ワドルディの首根っこをひっつかみます。 「ワープスター、レッツゴー!」 星型の板、ワープスターはあっという間に空に舞い、住民達に見えなくなりました。 未だにBGMを流し続けるラジカセと、ワドルディの悲鳴を残して……。 一方こちらはデデデ城。 城特有のムダに広くムダに豪華な造りをしています。 「うーむ……」 玉座にふんぞりかえってうんうん唸るのは、1人の青年。 彼こそ水色の短い髪と赤い帽子、赤いコートがトレードマークの王様、デデデ大王です。 玉座の後ろには、今朝盗んできた大量の食料が無造作に置かれています。 「……なあ、ポピー。暇だ」 デデデ大王は玉座の傍で立っている執事の少年に話しかけます。 「……はあ、暇、ですか」 水色の帽子がトレードマークの執事少年、ポピーは気のない返事を返しました。 「早く誰か取り返しに来いよ……」 ため息をつく大王の横顔は憂いを帯びています。 「……大王様、寂しいんですか?」 ポピーがそう言うと、大王は慌てて首を左右に振りました。 「バッ……バッカ! そんなんじゃねーよ! せっかく王様になったのに誰も反応してくれなくて寂しいとかそんなんじゃねーよ!」 語るに落ちる。 「……へええ、そんな理由で食べ物盗ったんですか?」 ポピーは冷めた目線で大王を見つめます。忠誠心ゼロの眼差しです。 「ち、違うぞ! 各地に配備した手下を倒してやってくるほどの強者をわしの手下にしようと思って盗ったんだ!」 「手下って……あの、礼金無しで城の建設を手伝ってくださった方達ですか?」 「うむ。わしの人徳で奴等はわしに惚れ込んでるだろう。だから礼金を求めなかったのだ」 「……あの人たち、ただ単に暇だから手伝ってみただけじゃないですか?」 「ちがーう! わしの部下なの! そうじゃなきゃやだー!」 駄々をこねだす大王。王様の威厳ゼロ。 「まあ、部下かどうかは取戻しに来た人から話を聞けば分かりますよ」 「う、うむ。そうだな……」 大王は落ち着きを取り戻し、食べ物の山の中からパンを取り出し、一口かじりました。 その瞬間、城中に轟音が響き渡りました。 「おっ、やっと来たな侵入者! わしのハンマーの餌食にしてくれるわっ!」 大王は急に活気付きました。 そしてその横でポピーが冷めた目をしていました。 「もー! バカタレの部屋はどこにあるんだよー!」 「知らないッスよ! オイラ、ここに来たことないんスから!」 カービィとワドルディの2人はだだっ広い廊下をひた走ります。 あ、訂正。ワドルディがカービィを背負って、ひた走ります。 ワドルディは片っ端からドアを開けていきますが、誰もいない部屋ばかり。 「あっ、あっちに偉そうなドアがあるよ! 多分あそこ!」 カービィが指差した先には大きくて豪奢な作りの扉。いかにも王様って感じ。 「神風特攻ワドルディ、ゴー!」 「はいッス……」 ワドルディは半ばやけくそに扉を蹴り開けました。 さてその扉の先には王様と執事と食べ物が待ち受けていました。 「わしの城へよく来たな……」 王様が重々しい言い方で2人を迎えました。 その横でポピーが、 「またそんな偉そうにして……」 冷めた一言を放ちます。 「わしの手下は手ごわかっただろう……」 デデデ大王がそう言うと、カービィとワドルディが揃って首を傾げます。 「いや、ワープスターで飛んできたから」 「そういえば、手下がいるって話があったッスね」 この2人の言葉に大王フリーズ。 彼にとって、空からやってくるなんて予想外のことでした。 「……な、なんだと……?」 「んじゃ、食べ物貰ってくねー」 そんなデデデ大王を無視して、カービィは食べ物に向かってずんずん歩いていきます。 そしてあと少しで食べ物ゲットという所で―― 「待てえいっ!」 デデデ大王が正気を取り戻しました。 大声を出すと同時にハンマーを持ち、カービィに向かって勢いよく振り下ろしました。 が、カービィがこんな一撃でやられるわけがありません。ひょいと軽く避けます。 「のろまー」 挑発も添えて。 「なっ、のろまだとぉぉぉぉ!」 簡単に挑発に乗りました。流石デデデ大王。 怒りに任せてハンマーを振り回しますが、やっぱりカービィはひょいひょい避けます。 「かめー」 「あほー」 「しねー」 など、挑発と言えない低レベルの悪口も勿論添えます。 デデデ大王にはこのレベルの悪口で十分です。 低レベルな戦いを繰り広げる2人を、違う2人はただ見ることしか出来ませんでした。 と、ふと2人の目が合いました。 「…………」「…………」 同じにおいを嗅ぎ取ったのでしょう、2人の表情は少し和らぎます。 「……苦労してるんスね」 「そちらこそ……」 小さな友情が芽生えました。 さてカービィとデデデ大王の争いは、早くも終わりを迎えようとしています。 重たいハンマーを力任せに振り回し続けたデデデ大王の体力はもう尽きる寸前でした。 「はあ……はあ……」 デデデ大王は息を切らせてハンマーを地面に置き、ついにその場に膝を着きました。 そしてその前に立つカービィ。 「んっふっふ、もう体力切れかな?」 なんとも邪悪な笑みを浮かべています。 「さーて、どうしようかな……」 じろじろとデデデ大王の全身を眺め、ある1点で目を止めました。 「……んっふっふ……」 カービィはデデデ大王の帽子の端をむんずと掴み―― ――スポッ。 帽子を取りました。 デデデ大王の身体は硬直し、カービィはじろじろと眺めた挙句、 「……ハッ」 鼻で笑って帽子を元に戻してあげました。精神的に大ダメージ。 「……ううっ……いじめだ……」 デデデ大王、完全敗北。 その場にうずくまっておいおい泣き始めました。いい大人なのに。 「んじゃ、食べ物いただきまーす」 カービィはそんな大王を心配することも無く再び食べ物にまっしぐら。 そしてあと少しで食べ物ゲットという所で―― 「待てえいっ!」 またもデデデ大王が大声を上げました。 「……なに?」 ものすごく鬱陶しそうにカービィは振り返ります。 デデデ大王は震える手でポピーを指差し、 「まだわしの秘書を倒してないぞ! 次はわしの秘書が相手だ! さあ行けポピー、あの悪魔を爆破しろ!」 「イヤです」 即答でした。 「なっ……わしらの敵だぞ、あいつは! お前の好きな爆弾であいつを爆破しろ!」 「無理です。僕に倒せるわけがありません」 「大丈夫、お前ならできる! 信じてる!」 「そんな信用いりません」 ポピーの顔にかすかに苛立ちが浮かびました。 「ううっ、とにかくあいつを倒せ! さもなければお前の姉ちゃんに言いつけるからな!」 デデデ大王がそう言った瞬間、どこかから「ぶちっ」という音が聞こえました。 誰かの堪忍袋の緒が切れる音に似ています。 「ほーう……姉貴にねぇ……」 おや、ポピーの声がさっきとは打って変わって凶暴な声になっていますよ。 「いい度胸じゃねーか」 ポピーがつかつかとデデデ大王に近づくと、何のためらいも無く彼の胸倉を掴みました。 掴んでいない方の手には火花を散らす爆弾。 「いやっ……ポピー、少し落ち着こうか……っ」 「うるせえな」 ポピーはデデデ大王の言葉をその一言で一蹴し、デデデ大王をぽいっと放り投げました。 ついでに爆弾もぽいっと放り投げました。 数秒後、城中に爆音が響き渡りました。 その後も少年が、 「死ねっ!」 「むかつくんだよ!」 「俺に命令するんじゃねーよ!」 などと叫ぶ声や、さらに爆弾が爆発する音が聞こえたりしましたが、詳しいことはごく一部の人しか知る由はありません。 そう、旅人と住人と執事と王様の4人しか……。 「いやー、カービィさん。ありがとうございましたッス」 食料が戻ってきてお祭騒ぎの中、ワドルディはカービィにお礼を言いました。 「ん、いーのいーの。僕としても、人間が爆破される様を初めて見られたからよかったし」 カービィはトマトをかじりながら答えます。 「あの、お礼に何か……。流石に食べ物だけってのは申し訳ないッスし」 止せばいいのに、ワドルディはそんな話題を切り出しました。 「お礼、ねえ……」 かじったトマトをへたまで丸呑みして、カービィはきょろきょろと辺りを見回しました。 バカ騒ぎをする住民、山積みの食べ物、温かい気候。 平和が溢れる光景を、カービィはじっと眺めていました。 その時、彼が何を考えているかなんて誰にも分かりません。 「……よし、決めた」 カービィはワドルディの肩に手を置き、 「ここに住むから、まずは家を建てて!」 にっこりと、とても爽やかに笑いました。 「……ええええっ!?」 ワドルディは、お礼をしたいと言った事をとても後悔しました。 ――こうして、旅人カービィはあきれ返るほど平和な星ポップスターに住むことになりましたとさ。 めでたし、めでたし。 教訓:口は災いの元。 |